楽器は体の使い方、頭の使い方で上達に大きく差が出ると言われています。
初心者は特に何をすれば良いか分からず、練習方法を模索しているうちに挫折してしまう方も多いと聞きます。
ではプロの方々は初心者時代にどのような練習をしていたのでしょうか?
このシリーズではプロ奏者の練習方法から学び、効率的な上達を目指す足掛かりを作れればと考えております。
バイオリンはオーケストラの花形楽器。プルトの最前列群に位置し、その上品な佇まいは見るものを魅了します。また、クラシックのみならずアイリッシュやブルーグラス等の民族音楽やジプシージャズ、演歌からポップスまで、多様なジャンルに対応できるポテンシャルを秘めています。
その柔軟性の秘密は機動性とアーティキュレイションの自由さでしょう。
バイオリンは3オクターブ近い音域を持ち、調弦の都合も相まって、単音に関しては他の楽器を寄せ付けない機動性を誇ります。また、絶妙な弓のコントロールにより、鋭いスタッカートや無限に伸びる白玉、雄大なダイナミクスを表現することが可能です。
そんなバイオリンですが、なんでもできる楽器である分、習得が難しい楽器としても知られています。ギターのようなフレットはなく、弦長の短さからくる音程のにシビアさ、他の楽器にはないバイオリン・ヴィオール属特有の弓のという文化とそのコントロール。意識する部分が多過ぎて、バイオリンを挫折してしまう人や、始めることを躊躇してしまう人も多いはず。
今回はそんなバイオリンの上達の近道を、プロのバイオリン奏者、井川知海さんにお聞きしました。
筆者:最初に始めた楽器はバイオリンだったんですか?
井川知海(以下井川):そうですね。3歳の頃から、自分で「やりたい!」と親に直談判して始めました。今思えば、母によって私がバイオリンを始めるように環境を整えられていた、というのが正しいかもしれません(笑)。
筆者:他の楽器は何かやってましたか。
井川:母がやっていた影響でピアノを齧っていた時期はありますね。でもだんだん比重がバイオリンに寄った結果、ピアノは挫折してバイオリン一筋になっていきましたね。
筆者:やはり最初は分数バイオリンを使っていたのですか?
井川:いえ、最初は定規とお菓子の箱でバイオリン的な物をクラフトして(笑)、ずっと構えの練習をしていましたね。
筆者:そんなことをしていたんですね(笑)。それは独学でやっていたんですか?
井川:いえ、習いに行ったらそれをやらされたんです(笑)。それを使ってまずは徹底的に構えを覚え込まされて、それからやっとバイオリンを持たせてもらいました。それからは親がスパルタだったこともあって、人よりは早いペースでメソッドを修了していったのを覚えてます。
筆者:高校は東京音大附属高校、大学がポーランドのショパン音楽大学ということですが、ポーランドに渡ったきっかけはなんだったのでしょうか?
井川:中学の課外活動の一環で、ポーランドと日本の外交に携わっている方にお会いする機会があって、その方が音楽に造形が深い方だったんですね。それでバイオリンをやっているということで私に興味を持って頂いて、音楽関係でポーランドに渡航する機会が何度かあったんです。それがきっかけで大学はポーランドの学校に行こうと決めていました。
筆者:それショパン音楽大学に入学して、首席卒業したわけですね(笑)。
井川:恐縮です(笑)。
筆者:そんな井川さんですが、バイオリンを始めたての頃に意識していたことはなんでしょうか?
井川:やはり構え方ですね、構え方、持ち方は全体の練習効率を上げるためにとても重要です。
バイオリンを構えるという動作は、人間にとっては平常とは変わった動きなので、初心者の方はバイオリンを「構えなければならない」という先入観を持ってしまいます。そのせいで肩が上がってしまったり、腕が不自然な曲がり方をしてしまっている方が多いです。そうならないためにも、まずはバイオリンを持った状態でいかに脱力出来るかが重要になってきます。この部分は特に独学でやろうとすると難しく、多くの人が挫折してしまう原因の一つなのではないかと思います。
筆者:力を抜くコツなどはありますか?
井川:「呼吸」ですかね。構えた状態で大きく深呼吸をすると一気に力が抜けるので、その状態を維持する意識をするといいです。あとはこれは海外の方が教えてくれたくれた方法なのですが、椅子の背もたれを脇に挟んで、持つ方の腕を痺れさせてから待つと、全然力が入らないのでおすすめです。その感覚を覚え込めば、自ずと力は抜けていくと思います。
筆者:なるほど、強制的に力を抜くんですね。
井川:もう一つ、自分にあっていない肩当て、顎当てを使っている可能性があります。専門店では肩当てを試させてもらえるので、違和感を感じた段階で色々試してみるといいと思います。
井川知海
3歳よりヴァイオリンを始める。
東京音楽大学付属高校を卒業後、単身ポーランドに渡欧し、国立フレデリック・ショパン音楽大学にて研鑽を積む。2017年に同大学の全過程を”最優秀”の成績で修了。
日本に帰国後、ソロ・リサイタルを開催する他、TIAAフィルハーモニー管弦楽団と協演を果たす等、大躍進。その感受性豊かで暖かみのある音色は、多くの聴衆に愛されており、将来が期待される若きヴァイオリニストとして、注目を集めている。
また現在は、音楽の”本当の楽しみ”を伝える事をテーマに、ライブ活動や動画配信等も積極的に行っており、独特の視点から展開される、軽快だが深みのあるトークは、幅広い客層から高い評価を受けている。
これまでにヴァイオリンを、立元きよみ、椙山久美、鈴木亜久里、海野義雄、K.A.クルカ各氏に師事。室内楽を、A.グズ、R.ドゥシュ、P.ウォサキエヴィチ各氏に師事。
第28回静岡県学生音楽コンクール 中・高生の部において第1位、及び室内楽長賞を受賞。また上位入賞者演奏会に出演し、好評を得る。
第8回全日本芸術コンクール 関東本選 大学生の部において第3位。その後の全国大会でも第3位をそれぞれ受賞。また翌年に行われた同コンクールでは、第2位を受賞している。
第15回大阪国際音楽コンクール Age-U部門において第3位を受賞。
第9回横浜国際音楽コンクール 一般-A部門において第3位を受賞。
第6回TIAA全日本クラシック音楽コンサートに出演し、審査員賞を受賞。
2015年にモーツァルテウム国際サマーアカデミーに参加。R.フリッシェンシュラーガー氏のマスタークラスを修了。
21st Century Orchestra Tokyo 第1コンサートマスター。
公式ホームページ
http://www.tomomiikawa.com/
公式Facebookページ
https://www.facebook.com/Tomomi.Ikawa.violinist/