前半では井川知海さんにバイオリンを始めた経緯やプロになるまでに軌跡、バイオリンの構え方などについて言及していただきました。後半では運指についてや弓の扱いについてお話いただいています。それでは続きをどうぞ。


 

筆者:左手の指が動かない、ピッチが合わないという方も多いと思うのですが、そこについてはどんな練習が効果的ですか?

井川知海(以下井川):ピッチについては、例えば薬指で押さえる部分について、指板を目で視認した上で、薬指のみで押さえてしまう人が多いです。それはなかなかの博打です。私から言えるのは「中指〜小指は信用するな」ということです。信用できるのは人差し指だけ。人間の指は人差し指から離れれば離れるほどうまく動かないものです。なので人差し指を絶対的な基準として、そこからの距離を感覚で覚えていくようにすると良いです。それを覚えてしまえば、早いパッセージでもピッチが揺れなくなってきます。また、スケールを覚える際は人差し指〜小指の感覚を型として覚えてしまいましょう。そこまでいけば結構な数の曲がとりあえず弾けるようにはなるはずです。

筆者:なるほど。指を機能的に動かすことについてはどうでしょうか?

井川:総合的に原因がある可能性が多いです。私も悩んだ時期があったんですけど、これも結局立ち返ると自然な形が大切だったんですね。運指で悩んでいる方で多いのが左手の親指が手の甲より後ろにいっていることが多いんです。または人差し指と親指で挟んでしまっていたり。これは手に何かしらの負荷が掛かってしまっている状態です。一番手が自然なのは歩いている時の手の状態です。それをそのままバイオリンのネックに持って行けば、一番指が動く状態になります。あとは手のひらをネックに着けないことです。ネックは人差し指と親指の間の線上に乗せるようにしましょう。

筆者:ありがとうございます。弓の扱いについてはどうでしょう。

井川:綺麗な音が出ない原因としては、弓が弦に対して垂直ではないことが原因となっております。多い例としては肘が前後、左右のどちらかに極端に動いてしまうことです。それは弓にはありえない動作です。正しくは肘を動かさず、斜めに腕が伸びていく形です。それにあたって持ち方を考えなければならないのですが、ここで重要になってくるのはやはり脱力です。もう全部これですね(笑)。腕を正しく動かすためには、いかにして手首から先の力を抜くかが重要になってきます。ここでも構え方の時のように。弓を「持たなければならない」という考えが働き、必要以上に力を入れて弓を持ってしまう方が多いです。「狐の手で持つ」とよく言いますが、「狐の手でつまむ」といったほうが適切でしょうか。中指と薬指、親指で優しくつまんで、人差し指と小指で支えるという感覚で持ち、音の強弱の調整は弦に押し付ける強さと弓を動かすスピードで行います。弦に押し付ける強さは人差し指で調節し、決して必要以上に力を入れないようにしましょう。手首と肘、持ち方がしっかりすれば綺麗な音は必ず出ますよ。

筆者:ありがとうございます。
最後に初心者の方や、これからバイオリンを始めたいと思っている方へのメッセージなどはありますか?

井川:バイオリンは簡単な楽器ではありません。しかし続けていけば、体の自然な状態がよく分かり、日常の佇まいも上品になってくると思います。また、体の動かし方について色々思索し、試行していくことは脳の開発にも良い効果があるでしょう。自分自身と楽器への好奇心を忘れずに、バイオリンという楽器を楽しんでいただければ、奏者としても幸いです。

井川知海
3歳よりヴァイオリンを始める。
東京音楽大学付属高校を卒業後、単身ポーランドに渡欧し、国立フレデリック・ショパン音楽大学にて研鑽を積む。2017年に同大学の全過程を”最優秀”の成績で修了。
日本に帰国後、ソロ・リサイタルを開催する他、TIAAフィルハーモニー管弦楽団と協演を果たす等、大躍進。その感受性豊かで暖かみのある音色は、多くの聴衆に愛されており、将来が期待される若きヴァイオリニストとして、注目を集めている。
また現在は、音楽の”本当の楽しみ”を伝える事をテーマに、ライブ活動や動画配信等も積極的に行っており、独特の視点から展開される、軽快だが深みのあるトークは、幅広い客層から高い評価を受けている。
これまでにヴァイオリンを、立元きよみ、椙山久美、鈴木亜久里、海野義雄、K.A.クルカ各氏に師事。室内楽を、A.グズ、R.ドゥシュ、P.ウォサキエヴィチ各氏に師事。
第28回静岡県学生音楽コンクール 中・高生の部において第1位、及び室内楽長賞を受賞。また上位入賞者演奏会に出演し、好評を得る。
第8回全日本芸術コンクール 関東本選 大学生の部において第3位。その後の全国大会でも第3位をそれぞれ受賞。また翌年に行われた同コンクールでは、第2位を受賞している。
第15回大阪国際音楽コンクール Age-U部門において第3位を受賞。
第9回横浜国際音楽コンクール 一般-A部門において第3位を受賞。
第6回TIAA全日本クラシック音楽コンサートに出演し、審査員賞を受賞。
2015年にモーツァルテウム国際サマーアカデミーに参加。R.フリッシェンシュラーガー氏のマスタークラスを修了。
21st Century Orchestra Tokyo 第1コンサートマスター。
公式ホームページ
http://www.tomomiikawa.com/
公式Facebookページ
https://www.facebook.com/Tomomi.Ikawa.violinist/

 

【楽器奏者に聞く】初心者のための楽器上達方法【バイオリン編】(後編)

 

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