どうしても紹介したいピアニストがいる。
マーク ハンブルグ
自由奔放で非常に個性の強いピアニストである。
1870年代の生まれ、あの時代に2000以上の録音を残した巨匠中の巨匠である。が、現在ほとんど忘れられていると言ってよい。録音も嫌がるピアニストが多かった時代にテレビに出ている。
デコレーションケーキのようにピアノを並べてその頂点でハンブルグが派手な身振りで軍隊ポロネーズを弾いたりしている意味のわからない動画もある。
幕の開く時と、特に閉まる時にどうしても笑いが込み上げてしまう。評価され、尊敬されていたピアニストであるが今見ると映像は作為的新興宗教的である。
ラフマニノフの前奏曲「鐘」をレクチャーしてから弾く映像は本当に軽々と弾いていて驚く。ショパンのワルツ5番では途中マズルカのリズムになったりとかなり自由な表現、現代の演奏に慣れた人は笑ってしまうかも。
面白いことは確かだ。
しかし何と言ってもドビュッシーの牧神の午後への前奏曲、これがハンブルグの底知れぬ実力を如実に表した演奏であろう。
オーケストラの為の曲である上に繊細な曲なので打楽器であるピアノで再現することは非常に難しい。
沢山の音があるのでピアノで弾ける音は限られているがハンブルグはいい感じに音を選び抜き(このセンスがほとんどのピアニストに無いものなのだが)即興的で儚い演奏を実現させている。
以前二台ピアノの演奏でこれを聴いたことがあるが全くミスがなく楽譜通りの演奏であったがつまらない演奏であった…そんなものを聴くくらいならオーケストラで聴いた方がいい。ハンブルグの演奏にはオーケストラには無い色彩感と独特のうねり、ファンタジーがある。
録音状態は悪いが別世界に誘われる演奏だ。普通のオケ版と聴き比べてみると面白いと思う。(ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団がお薦め)