オーケストラの中心であり司令塔である指揮者。その役割について1つの疑問が浮かびました。ポップスもロックもジャズもメタルも、指揮者なんていません。吹奏楽とオーケストラくらいです。クリックという便利なものもある現在、指揮者は本当に必要なのか。

指揮台にメトロノームが置いてあってそれに合わせるオーケストラとか面白そうなのに…

何故指揮者が必要なのか、そもそも指揮者の役割とは何なのか。

実際に指揮棒を振っているプロに聞くのが早いだろう、ということで実際に指揮者に聞いてみました。

今回は新進気鋭のオーケストラである「21世紀オーケストラ」で指揮者、音楽監督を務める泉翔士さんに、指揮者の重要性について聞いてみました。

 

プロフィール
泉翔士
東京音楽大学指揮科及び同大学院指揮研究領域修了。
大学院ではショスタコーヴィチを中心とした戦時中のソヴィエト芸術についての研究に没頭する。 第4回井上道義による指揮者講習会優秀賞。 指揮者としての活動の他、ピアノ奏者としても幅広い活動を展開している。
主催する21世紀オーケストラは2018年9月28日に演奏会「吹奏楽をオーケストラで!」を開催。同演奏会は「吹オケ!プロジェクト」としてクラウドファンディングを行い、達成率200%の成功を収める。11月にはグスタフ・マーラーをテーマにした演奏会を開催予定。
21世紀オーケストラ公式ホームページ
https://www.21stcot.com
泉翔士ブログページ
http://spring2327.blog.fc2.com
twitter
https://twitter.com/cond_zoomin

 

筆者:最初から指揮者だった、というわけではないんですよね?

泉翔士(以下泉):最初に始めた楽器はピアノでした。親が男の子が生まれたら絶対にピアノを習わせると決めていたみたいで、半ば強制的にやってましたね(笑)。3歳からヤマハの教室に通い始めて、5歳から本格的に習い始めました。その後中学校で吹奏楽部に入って、チューバを吹いてました。集団音楽が楽しいと感じたのはそれがきっかけですね。

筆者:指揮を始めたのはいつからですか?

泉:高校生になってからです。とある機会があって海上自衛隊の音楽隊の方から指揮の指導を受けられる事になって、そこからスタートしました。このころには音大に行くという決心はしていたんですけど、元々はピアノで受験する気だったんです。しかし高校2年の頃に教わりだした先生の勧めで、指揮科で受験することにしました。

筆者:そこからキャリアが始まったということですね。

さて、今回は指揮者は本当に必要なのか。というちょっと失礼な議題でお話しして頂きます。メトロノームの特許取得が1816年、ベートーヴェンが音楽家として最初に使用したと言われていますが、それ以降指揮者がメトロノームに取って代わられることなく存続しているのは何故なのでしょうか?

泉:難しい話ですね(笑)。確かにクラシックや吹奏楽以外の楽器ではクリックが積極的に使われています。リズムキープだけならそれだけで必要十分です。ドビュッシーの言葉で、「言葉で表現しきれなくなった時に、始めて音楽が始まる。」というのがあります。クラシックはこの言葉から分かるようにとても感情的な音楽で、曲が持つ緩急や呼吸を表現しなければなりません。基本的にルバート(柔軟にテンポを変えること)の音楽なんですよ。そのような要素は機械では表現し切れない。だからこそ指揮者は今日でも指揮台に立っているのだと思います。

泉翔士

筆者:曲に内在する感情を引き出すのが指揮者の仕事ということですね。

泉:ええ。指揮者は必要なのかという質問は散々されてきましたけど、正直熟練のオーケストラなら、指揮者なしでも素晴らしい演奏は出来ると思うんですよ。しかし彼らはプロなので、たくさんの演奏をプロジェクトとして抱えています。リハ―サルに使える時間も限られています。指揮者は、そんな彼らが短時間で曲の感情表現を揃える為の、ガイドのようなものでもあります。

筆者:1つの演奏会において、曲の感情表現を纏め、進行させていく役割があるんですね。

泉:そうですね。その為に本番前に譜面を読み込み、各楽器にどう演奏させるかを考える。リハーサルでその内容を指示出しして曲に色を付けていく。実は本番前のここまでの段階で仕事の9割は終わってるんです。残り1割は本番で、色のついた曲を再現することになります。

筆者:事前準備がとても重要なのですね。良く分かりました。

ここまでは指揮者の役割について話して頂きましたが続いて指揮自体の話をしていきたいと思います。泉さんが指揮をする際、意識していることはありますか?

泉:曲の感情を体で表現するのは先に話した通りですが、特に意識しているのは各楽器特有の呼吸を考えて支持を出すことです。例えば弦のピチカート。この奏法には音を出す前に、指で弦を捉えるという動作が入ります。我々はこの準備動作を意識した指揮を振る必要があります。そういった楽器の呼吸が各々違うので、その指示出しには特に気を使います。

筆者:最後にこれから指揮者を志す方に一言お願いします。

泉:指揮にも技術的な上手い下手はありますが、本当に大切なのは感情です。音楽が大好きでたまらない、この曲はこう表現したい、決して押しつけがましくなってはいけませんが、このような情熱を指揮に反映させていくことが最も大切です。心を込めて、全身で表現した「音楽」を、大勢の奏者が奏でてくれるというのは、この上ない幸せを感じることができます。是非熱い心を忘れずに、指揮棒を振って頂きたいです!