ピアノを良い状態に保つには設置場所が重要であることをご存知でしょうか?この記事ではピアノに最適な湿度や設置場所・防音対策について解説します。これからピアノを設置する予定の方や、今の置き場所に不安がある方はぜひ参考にしてくださいね。
案内人
- おばたおりえピアノ調律師。大阪府出身。
大学卒業後、専門学校にて調律・修理・整調・塗装・オーバーホールを学ぶ。
卒業後、ピアノ調律会社にて工房勤務経験を経て現在フリーの調律師として活動中。
目次
ピアノの設置に適した湿度・温度
アップライトピアノやグランドピアノと呼ばれるアコースティック(電子部品を持たない)ピアノは主に木材で出来ているため、温度や湿度変化の影響を受けやすくなっています。そのため、設置場所の環境についても注意が必要です。具体的に、ピアノに適した温度・湿度は以下の通りとなります。
温度・・・約20℃(±5℃)
湿度・・・約60%(±10%)
一般的に人が過ごしやすく感じる室内の温度が17℃〜28℃、湿度が40%〜70%程度です。このことから、空調設備があるリビングなど、快適な環境に保たれている部屋に設置することで、ピアノを良い状態に保つことができると考えられます。
置いてはいけない!ピアノの設置場所&NGポイント
前項でピアノの設置に適した温度や湿度があることがわかりました。次は具体的にどういった場所に置いてはいけないのかをご説明します。
直射日光が当たる所
ピアノに直射日光が当たると、温度も湿度も変化が激しくなるため、木材の割れや反りを引き起こす可能性があります。また、日焼けで塗料の劣化を早め、外観を損なう恐れもあります。どうしても陽のあたる場所に設置しなければいけない場合は、遮光カーテンやピアノカバーを使用するなどで対策しましょう。
水回りの近く
前述の通り、湿度調整もピアノの状態を保つ上で大切な要素です。お風呂や洗面台の近くなど水回りの近くに設置すると湿気がこもり、木材やフェルトが膨張して部品の動きが悪くなります。また、弦が錆びる、木材にカビが生える等のトラブルも起こしやすくなるため要注意です。
窓の側
窓の側は雨が降り込んだり、窓の開け閉めによって温度変化が大きくなります。また、冬場は結露が多く、湿度が非常に高くなるためピアノの設置場所としておすすめしません。スペースの関係で窓際に置かなくてはいけない場合はカーテンを使用しましょう。
キッチンの近く
キッチンも温度・湿度の変化が大きい場所です。調理中の湯気がピアノにとって良くないことはもちろんのことですが、長年そのような環境で使用していると油汚れにも侵されます。ピアノを痛める原因となるため、キッチンや食卓からは距離を取って設置するのがベターです。
暖房器具との距離・床暖房について
ピアノの設置場所には空調設備が整っていた方が良いとお伝えしましたが、エアコンの風やストーブの熱がピアノに直接当たることはNGです。風や熱がピアノに直接当たることで過乾燥の状態になり、木材の割れ等の不具合を引き起こしてしまいます。
エアコンなどの冷暖房器具を使用する際は風向きや置き場所を調節し、対象器具からピアノを1.5m程度離して使用しましょう。
床暖房はピアノの下半分だけを温めることになり、木材や部品にダメージを与えてしまいます。設置場所として避けるのが一番望ましいですが、どうしてもと言う場合は断熱効果のあるピアノボードを利用してください。
また、極端な温度変化はピアノにとって良くありません。冷房の際は高めの温度、暖房の際は低めの温度で使用して温度をできるだけ一定に保つよう心がけましょう。
ピアノ設置時に気を付けたいポイント
室温や湿度だけでなく、ピアノを設置する際に事前に気をつけたいポイントを3つご紹介します。
①スイッチ・コンセントの位置
アップライトピアノの場合、壁に沿って設置することが多いので壁の電気スイッチやコンセントを塞いでしまいがちです。一度ピアノを設置してしまうと自分で動かすことができないため、事前に確認しておきましょう。
②壁に密着させない・左右・上部にスペースを空ける
ピアノの背面部にある響板が音を増幅させる役割をしているため、背面をぴったりと壁につけてしまうと音の振動が壁を伝い雑音が発生し、音が上手く反響せず響きが悪くなります。壁から10〜15cm離して設置するようにしてください。
また、調律の際には外装パネルを取り外したり、専用工具を使って調整をするため、ピアノの左右と上部分には必ずスペースが必要です。
アップライトピアノであれば、特に右側に30〜40cm程度の空間がないと調律に支障をきたします。グランドピアノであれば内部部品を引き出す必要があるため、鍵盤の手前方向には1m程度以上空間を空けるようにしましょう。
③床が丈夫な場所を選ぶ
アップライトピアノで約200kg〜300kg、グランドピアノで約300kg~500kgの重量があるため、強度の心許ない場所に設置すると、最悪の場合床が傾く可能性があります。住環境によっては床補強が必要になる場合もあります。心配な場合は、設置前に施工会社や管理会社に確認することをおすすめします。
畳などのやわらかい床材の上に置くと痕がつく場合があるため、一般的に敷板やピアノボードと呼ばれるピアノの下に敷く専用の板に乗せ、荷重を分散させて設置します。
ピアノの搬入について
ピアノは精密部品の集合体であるだけでなく、大型重量物でもあるため、搬入・移動については専門のピアノ運送業者が行います。
運送に掛かる金額は距離だけでなく搬入経路によって決定します。経路によって特殊作業が必要なケースがあり、追加料金が発生するためです。玄関口に段差があるか、マンションなどの集合住宅の場合エレベーターは使用可能か、何階なのか、階段で曲がれるスペースがあるかを事前にチェックしておきましょう。、必要であれば現地に運送員が出向き、見積もりをとります。
ベランダから外吊りでクレーントラックを使用して搬入したり、搬入口がピアノ幅より狭くて入らない場合は、通常行わない分解をして搬入する場合もあります。
素人が行うとピアノへダメージを与えてしまう可能性だけでなく、最悪の場合、大怪我を引き起こすこともあるため、必ず専門業者に依頼するようにしましょう。
また、移動や環境の変化で調律が崩れるため、ピアノを新しい場所に設置した際は必ず調律が必要です。
防音対策について
ピアノを設置する上で欠かせないのが防音対策です。ピアノの音の大きさは約80〜90db程度であり、これは電車の車内の騒音と同じ程度の騒音レベルと言われています。ピアノの音は騒音となりうることを意識し、周りの迷惑にならないよう対策することが大切です。
ピアノ設置時に気をつけたいポイントでも触れましたが、ピアノは背面部が一番大きな音が出る構造をしています。そのため、背面部は外に接する壁や、マンションの場合、隣の部屋に接する壁に向けないように設置するだけでも防音対策となります。
防音対策については下記記事にて詳しく解説しているのでぜひ合わせてご覧ください。
まとめ
ピアノはとにかく温度・湿度の変化に弱い楽器です。最適な環境を意識して設置するだけでも数年後、数十年後、ピアノの状態は大きく変わってきますし、寿命にも影響します。今回ご紹介したポイントを参考に、大切なピアノの設置場所を決めてくださいね。