全日本吹奏楽コンクール全国大会に毎年出場する常連強豪校の1つ、大阪桐蔭高校吹奏楽部。
この大阪の吹奏楽部強豪校が今、全国的に注目を集めています。
なぜ、大阪桐蔭高校吹奏楽部がここまで注目を集めているのか。多くの人を魅了するサウンドの特徴について考察しました。
案内人
- 野坂公紀(作曲家)1984年、青森県十和田市出身。 青森県立七戸高校卒業。 2006年にいわき明星大学人文学部現代社会学科を卒業。作曲は独学後、作曲を飯島俊成氏、後藤望友氏に師事…
彗星の如く現れた大阪桐蔭高等学校吹奏楽部
大阪桐蔭高校吹奏楽部が吹奏楽コンクールに初出場したのは創部1年目の2005年。
このときは高校小編成の部で出場しているものの、関西大会まで駒を進めています。演奏した曲は、バルトークの「弦楽四重奏曲第2番より第2楽章」という意欲的な選曲でした。
そして翌2006年、現在も大阪桐蔭高校吹奏楽部総監督を務める、梅田隆司先生が赴任。この年の吹奏楽コンクールで創部2年にして、見事全国大会に初出場しました。
この年を境に、大阪桐蔭高校吹奏部の快進撃が始まります。翌年2007年の吹奏楽コンクールも全国大会に出場し、2009年から2011年は3年連続の全国大会金賞受賞という快挙を成し遂げました。
それ以降も全国大会に幾度となく出場し、現在では日本の高校吹奏楽部の強豪校の1つとして、確固たる地位と実績をもって全国にその名を轟かせています。
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部が奏でるサウンドの凄さ
では、高校吹奏楽部の強豪校の1つとなった大阪桐蔭高等学校吹奏楽部サウンドの魅力とは一体何なのでしょうか。
筆者が考えるに、それは「決して鳴らしすぎない芳醇な響き」にあると思います。
吹奏楽は楽器編成上、管弦楽や混声合唱の編成と比べると、大きな音(フォルティシモ)が比較的容易に出すことのできる編成です。それが吹奏楽の大きな魅力の1つでもあるのですが、時としてそれは音楽の全体像をぼやかしてしまう場合があります。
しかし、大阪桐蔭高校吹奏楽部の演奏は、それを見事に回避し、吹奏楽の「鳴りやすい」特性をプラスに活かしつつ、芳醇な響きに昇華する演奏です。特にテュッティ(全合奏)のときに顕著で、それは全国大会初出場から現在に至るまで引き継がれています。
また、忘れてはならないのが演奏されている生徒の皆さんの演奏力。大阪桐蔭高校吹奏楽部の演奏力は「圧倒的な基礎力」と「音楽に対する勘」にしっかりと裏付けされたものです。
「圧倒的な基礎力」という面においては、大阪桐蔭高校吹奏楽部は部員のほとんどが楽器経験者という面もあるのですが、それだけでは現在のようなサウンドを作り上げることはできません。
生徒の皆さんが日々、徹底的な基礎力を培っているからこそ、個人的技術はもちろんのこと、パート内、そして合奏時にしっかりとした演奏ができるのです。
それは、個々の技術がおぼつかない状態で吹奏楽という「合奏」をやっても良い演奏はできないということを、部員全員がしっかりと自覚しているからに他なりません。
また、「音楽に対する勘」、これは次に取り上げる、圧倒的な演奏回数というものに繋がってきます。
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の年間本番数は平均80回?
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部は年間平均80回程の演奏会を行っています。
2019年の演奏活動を見るだけでも、2月の定期演奏会を皮切りに地元大阪での演奏の他に、九州や山口県での演奏会、そして山陰地方や関東地方などの遠方での演奏会も行っており、ほぼどの演奏会もチケットは完売です。
このことは、大阪桐蔭高校吹奏楽部ファンの方々が演奏会に足を運べる機会が増える、また大阪桐蔭高校吹奏楽部のサウンドを多くの方にPRするということはもちろんのこと、吹奏楽部自体の演奏力向上、そして先述した「音楽に対する勘」にも繋がってきます。
お客様の前で演奏する機会が多ければ多いほど、本番に向けての練習期間は短くなり、日々の練習において常に本番を想定した演奏が必要です。
その中で、どうすればよりクオリティの高い演奏ができるかという意識が生まれ、ハーモニーやリズム、旋律の歌い方において、合わせる、アンサンブルする、曲の魅力や特徴をいかに引き出すかという「音楽の勘」を鍛えることができます。
それは「音楽における不文律」という言葉に置き換えることもできるかもしれません。
また、驚くほど多い年間演奏回数が大阪桐蔭高等学校吹奏楽部のサウンドを構築している1つの要因であると同時に、多感で吸収力の高い高校3年間という時期に音楽だけではなく、勉強にも集中できるという文武両道の環境作りをしている、大阪桐蔭高等学校ならではの校風も特筆すべき点でしょう。
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の本質的な魅力とは
さて、ここまで大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の魅力について書いてきましたが、最後にお伝えしたい大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の魅力は「音楽の喜びを伝える力」という部分です。まずご覧頂きたいのはこちら。
交響詩 魔法使いの弟子 大阪桐蔭高校吹奏楽部
2019年1月に行われた大阪桐蔭高校吹奏楽部の演奏会の一部分ですが、この曲は2018年に出場した吹奏楽コンクールにて自由曲として演奏した曲でもあります。
この交響詩「魔法使いの弟子」は【交響詩】というタイトルの通り、物語が題材とされており、そのストーリーに沿って展開され、それがこの曲の魅力の1つになっています。
そのような楽曲に演技を加え「可視化」することでより一層、視聴者に音楽が持っている素晴らしさを伝えることができています。
こういった音楽の素晴らしさを伝えるための工夫や努力を惜しまないのが大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の魅力であり、今もなおファンが増え、支持されている理由なのではないでしょうか。
「音楽の喜びを伝える」という想いが根幹にあるということが、大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の最大の魅力なのだと思います。
筆者も元々は吹奏楽部から音楽を始め、現在は作曲家として活動しています。今回の記事を書くにあたって、大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の演奏やサウンドに触れて、音楽の喜びを再確認できたのでした。