この記事を読まれている方は「作曲してみたい!だけど、どうすれば良いのか分からない」という方がほとんどかと思います。
この記事を書いている私は作曲家としてもお仕事をさせて頂いているのですが、きっかけは高校生の頃、「楽器の練習はもうしたくないから作曲でもしようかな」がきっかけです。ハイ、なまけものでした。
きっかけはなんであれ、「作曲してみたい!」と思い始めた初心者の方に向けて、『作曲方法の導入編』として実践的な記事を書いていきます。
最後までお読み頂ければ幸いです。

案内人

  • 野坂公紀
  • 野坂公紀(作曲家)1984年、青森県十和田市出身。 青森県立七戸高校卒業。 2006年にいわき明星大学人文学部現代社会学科を卒業。作曲は独学後、作曲を飯島俊成氏、後藤望友氏に師事…

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作曲とは

とある作曲家の方は作曲のことを「曲がったものを作る」とか、「曲がった家を作るから作曲家」と言っていたりします。それも妙に納得してしまうのですが・・・作曲はその言葉の通り、「曲を作る」ことです。

作曲のことを英語でいうとCompose(コンポーズ)と言います。この言葉の意味には「作曲」という意味の他に、「構成する」という意味もあります。すなわち、作曲というのは「音と音を構成し曲を作る」ということになります。

いきなり、めんどくさそうなことを書いてしまいましたが作曲というのは終始、かなり論理的な作業です。

「え!感性とかは必要じゃないの?」と思う方もいるかと思いますが、感性というのは作曲を始める、メロディーや方向性を決めるためのとっかかりの部分でしか必要としません。

作曲というのは感性で入ってきた最初の情報を論理的に楽譜やDAWに書き込んでいくという作業の繰り返しになります。特にクラシックの分野は、感性だけで曲を完全に作るのはモーツァルトに代表される音楽的天才以外には難しいです。

では、感性だけに頼るのではなく、どうすれば曲を作ることができるか。次からは、その方法をより実践的に書いていきます。

コンセプトを決める

作曲をする際にまず必要なのが、どういった曲を作るか曲の『コンセプト』です。

「ピアノでしっとり聴かせるバラードを作るのか」
「フルートとヴァイオリンの和風な曲にするのか」
「打楽器が活躍するリズミックな激しい曲にするのか」

自分が作りたい、伝えたいことをどのような方向性の音楽として表現するかを決めます。例えるなら、小説を書く際に「恋愛小説」を書くのか、「ホラー小説」を書くのかをまず決めるということと同じです。

このコンセプトをはっきり決めなければ作曲はできません。

構造を決める

コンセプトが決まったら、次は曲の重要な骨格となる『構造』を必ず決めましょう。

構造と言うと難しいように聞こえてしまうかと思いますが、簡単に言うと大まかなストーリー展開を決めるということです。

例えば、A-B-A方式と呼ばれる「三部形式」などが分かりやすい構造かと思います。

「速いテンポで始めて(A)、中間部はゆっくりとなる(B)、そして速いテンポの部分が戻ってきて終わる(A)」

またはテンポ以外にも、

「明るいメロディが出てきて(A)、悲しいメロディが出てきて(B)、また明るいメロディが戻ってきて終わる(A)」

これが三部形式です。

そもそも、なぜ構造を決めなけらばならないのか。

構造をしっかり決めなければ、曲のスタートからゴールまでの道のりが不明確になり、「一体なにが言いたかったの?」という曲になってしまいます。

また、構造をしっかり決めると一番の聴かせどころを決めることも可能ですし、曲もより一層ドラマチックになります。

メロディーを作ろう

「コンセプト」を決めて、「構造」を決めて、ここでようやく具体的な作曲に入ります。

ここではまず、『メロディー』を作ります。

作曲初心者にとってメロディー作りは、とても楽しいと思います。

予め決めたコンセプトを基に、皆様の思い思いのメロディーを作ってください。

メロディを作る際に決めなければいけないことは2つあります。

まず1つは「調」です。

明るい曲でも、調がハ長調(C)なのかニ長調(D)なのかで曲の雰囲気は大きく変わります。

「作ったメロディーが何調であるのか」もしくは「作ったメロディーにどういった調を付けるのか」これを明確に決めなければいけません。

調性がまったく無いような現代音楽を作曲する際は調性を決める必要はありませんが、作曲初心者の方は、まずは調性をしっかりと持った曲を作ることをオススメします。

もう1つは、「拍子」です。

作ったメロディー(曲)が何拍子であるかは、とても大事です。3拍子や4拍子などの拍子で曲の雰囲気や方向性は大きく変わってきます。

この時点でしっかりと拍子を決めましょう。

メロディーはできましたか?

この時点でメロディーが決まったら、次は伴奏を付けていきます。

伴奏という山を乗り越えよう①~ハーモニーの基礎知識~

メロディーができたら、次はそのメロディーに『伴奏(ハーモニー)』を付けていきます。作曲初心者にとっては、これが最初の山場かと思います。

伴奏を付けるにあたって、最初にすることは和音の進行(和声進行)を考えることです。

「うわぁ~難しそう・・・」と思った方もいるかもしれませんが、コツさえ掴めば難しくはありません。

まずは下の表1をご覧ください。

音程表

①のように、ドレミファソラシドの音にはそれぞれⅠ、Ⅱという数字がついています。これはドを1度、レを2度としたものであり、これを「音程」と呼びます。

そしてその音を1度、3度、5度(Ⅰ・Ⅲ・Ⅴ)と②のように構成した音を「和音」と呼びます。

表1に記載した音程や和音構成は、基本的なもので他にもたくさんありますが、今回は基本的なものだけを扱います。この音程や和音構成は大事な基礎知識なので、しっかり勉強したほうが良いです。

この和音をⅠ~Ⅶまで並べるとこうなります。

和音

この和音を使って伴奏を付けていくのですが、実はこの和音の使い方には順番があります。

次の表をご覧ください。

和音の順番

表2の①を見てください。

この和音の順番は、ある法則で並べています。その法則は「Ⅰの和音に帰りたい順番」という法則です。

Ⅰの和音はその曲の基本の和音となり、いわば「家」(自宅)みたいなものです。

そしてⅤの和音は「家」から1番遠いところにあり、いわば「外出先の友達の家」みたいなものです。

この法則から考え、Ⅰに近い順番で並べると①のような順番になります。これは基本的に絶対的なものであり、極めて大事な基礎知識です。

「え~!めんどくさい!なんでそうなってるの~?」と、思う方もいるかもしれません。

私も昔はそう思っていましたが、この法則は長いクラシックの歴史の中で作られてきたもので、覆しようのないものです。

また、J-POPなども、この基礎知識を基本としながら作曲されています。(そうでない曲もたくさんありますが・・・)

今回は、この和音の順番の中からⅠ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴだけを抜き出して伴奏を付けていきます。

Ⅱ・Ⅵ・Ⅶは特殊な意味合いを持つ場合が出てくるので、今回は割愛します。

このⅠ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴを先ほどの法則に従って並べると、②のようなイメージになります。

では次からは、具体的な伴奏付けです。

伴奏という山を乗り越えよう②~具体的な伴奏付け~

では、ここからは今回取り上げる和音の順番、Ⅰ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰに基づいて私が作曲しました短いフレーズを基に進めていきます。

まずはこちらの譜面をご覧ください。

譜面

この譜面の音源はこちらです。
このフレーズを作る際に決めたコンセプトや構造は、

コンセプト「ピアノのみを使ったテンポが速めの明るい曲。調性はハ長調(C)」

構造「休符がどんどん短くなる。メロディーや伴奏は分かりやすいよう和音の構成音のみ」

テンポはコンセプトに基づいて、速めの♩=120というテンポです。

構造については短いフレーズなので三部形式といったしっかりとした構造まではできませんが曲の骨格となる構造は決めました。

一度この譜面から伴奏を外し、どのような手順で伴奏を付けていくかを見ていきましょう。

譜面2

まず、構造を決める際に考えた「休符がどんどん短くなる。メロディーや伴奏は分かりやすいよう構成音のみ」に基づいて、1小節目は四分休符を頭に入れた伴奏を付けます。

2小節目も印象付けの意味合いも込めて同じ形を繰り返します。

譜面3

3小節目からは休符を短くし、頭に入っていた四分休符を八分休符に変えます。八分音符分空いたところには構成となる音を入れます。

また、1~2小節目では音が下がる進行になっていたものを、変化を付けるために音が上がる進行に変えます。

譜面4

4小節目は休符を全て無くします。

また、1~2拍目のメロディーは音が上がっていく進行に対して、伴奏は対比を付けるために1~2拍目は基本的に音が下がる進行にします。

また、3~4拍目には今までの伴奏の名残りのようなリズムにします。これによって全体的な統一性を出すことができます。

譜面5

最後の5小節目はⅠの和音に戻らなければならないのでメロディと同じドの音で終わります。

しかし、ここでも極めて大事な法則が出てきます。

次の譜面をご覧ください。

譜面6

Ⅴの和音は先ほど書いたようにⅠの和音から1番遠い和音であり、Ⅰの和音に帰らなければならない和音です。

そのⅠの和音に帰る際に必ず守らなければいけない法則、それは・・・「Ⅴの構成音の真ん中の音(Ⅲ)は2度上がらなければいけない」という、法則です。

「え~~!なんで~~!そんなことどうでもいいじゃない!」と、思う方もいるかと思います。もちろん私も昔はそう思っておりましたが、これもクラシックの長い歴史で考えられてきた覆しようのない法則なのです。

 

この、Ⅴの和音において2度あがらなければいけない音を「限定進行音」と言います。

今回私が作曲したフレーズでいうと、ハ長調なのでⅤの和音はソ・シ・レなので限定進行音はシの音となり、このシの音はⅤの和音で使われた場合はドに行かなければなりません。

4小節目の赤く丸がしてある音(シ)は限定進行となるため、5小節目の青く丸がしてあるドに進行することとなります。

また、このⅤの和音における真ん中の音(Ⅲ)が2度上がることによって、「ちゃんと家に帰ってきた」という安堵感(解決感)が生まれるので、しっかりとメロディーや曲を締めることができます。

まとめ

さて、ここまで作曲初心者向けに作曲の方法を書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?

「覚えることがたくさん・・・」と思う人もいるかと思います。そうなのです、作曲は覚えることがたくさんあるのです。

しかし、ここまで書いてきたことを基にして短いフレーズで良いので2~3曲、作曲してみると自然と法則や知識が身についてきます。そして、「もっと違う方法で曲を書いてみたい!」と思うはずです。

作曲の始まりは感性かもしれませんが、そこから先は知識や論理を探求する好奇心への道のりとなります。そして、それを繰り返していくうちに「個性的な曲」や「型破りな曲」が作曲できるはずです。

「えぇ~い!!そんなことどうでもいい!!最初から個性的で型破りな曲を作ってやる!!」と、思う方もいると思います。

それもその方の作曲方法かもしれませんが、とある歌舞伎役者さんがこのような言葉を残しています。

「型がある人が破るから型破り。型が無い人がすると、ただの型無し。」

是非一度、型に入ってるのもオススメです。最後までお読み頂きありがとうございました。