吹奏楽界隈ではレジェンド作曲家として知られている天野正道先生が初めて課題曲を手がけました。それが「レトロ」です。1970年代後半に流行ったポップステイストで作られた本曲は、今の若い世代にどのように受け止められるのでしょうか。
さっそく、吹奏楽課題曲Ⅲ「レトロ」について詳しく見ていきましょう。
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
2023年吹奏楽コンクール課題曲Ⅲ【レトロ】
吹奏楽連盟が直々に天野正道先生に依頼して生まれたのが課題曲Ⅲ「レトロ」です。
なんと、天野先生が吹奏楽課題曲を手掛けるのはこれが初めてだそうです。一体どんな曲なのでしょうか。さっそく詳しく見ていきましょう。
作曲者:天野正道(あまの・まさみち)
演奏時間:約4分
作曲家・天野正道について
誰もが知っている超レジェンド作曲家です。
作曲ジャンルも様々で、吹奏楽以外にも、映画音楽、JAZZ、歌謡曲まで様々なテイストの曲を作曲されています。
吹奏楽コンクールの自由曲で、もはや定番となっている作品も多いですよね。
そんな天野正道先生が初めて手掛けた課題曲がポップス⁉これはテンション上がりますね!
演奏のポイント
ポップスの課題曲って選ぶのに悩みますよね。
吹奏楽でJ-POPを演奏することは多いですが、なんとなくノリで演奏している学校も多いのではないでしょうか。
しかし、天野先生もスコアの解説に書いてくださっているように、ポップスにもセオリー理論がしっかりとあります。「こうするとカッコいい」「これが基本」というものを知ると音楽がより充実するでしょう。
大作曲家・天野正道先生の作品を解説するなんて恐れ多いですが、筆者なりにこの作品に向き合ってみました。
出だしからD
出だしから「レトロ」らしさ全開。昭和のテレビ番組のような音楽ですね。
これも天野先生自身が解説で書いているように「ダサい」というリアクションもありなのでしょう。しかし、ここから自分なりにしっかり曲に向き合い、突き詰めることによって新たな音楽が生まるのだと思います。
この曲は4拍子ですが指揮者が丁寧に4拍子を振ると、とても違和感がでてしまいます。パルスとしてメトロノームで練習することは大事ですが、4拍子でカチカチと振るよりいっそのこと踊っている方が雰囲気が出ます。
大事なのは休符を「ウ」と感じられるかです。3拍目からのリズムも口で歌えるようになると良いでしょう。その時にニュアンスを奏者全体で揃えることが大事。「ダダッダ」なのか「ドゥダダ」なのか、全員で音楽をしゃべってみると良いでしょう。
全体を通してシンコペーションがあるポップスはものすごく大事なので、そこを意識してノリを良くしましょう。ドラムのリズム、雰囲気を参考にすると良いですね。
Aの1小節前のドラムはものすごく大事ですね。このドラムのシンバルの位置とトランペット、トロンボーンなどの休符の位置が同じであることにお気づきでしょうか。自分のパート譜だけ見て演奏していては、この曲のノリが全く作れません。ドラムのノリを全員共有しましょう。
Aからアーティキュレーションは難しいですね。伸びている音が衰退しないよう注意してください。
基本的には音は衰退しない。フレーズの頭は食いつくように。シンコペーションは音を手で掴むようなイメージです。
Aの4小節目の山型アクセントは、大きなボールを弾ませるイメージですね。重みもあるけど、軽やかさも大切になってきます。
Bからもたくさんシンコペーションがありますね。休符を感じて次の音は自然とアクセントがかかる感じです。
Cの1小節前は、まさに2拍子で、3連符を作れると良いでしょう。クレシェンドはCに向かってのエネルギーになります。
25小節目はピッチカートを聴かせたいところ。そしてたっぷり美味しいフレーズの先には、合いの手のf、そしてffです。
DからG
Dのソロは美しく仕上げたいですね。静と動の対比がしっかりしていると、カッコ良くなります。
Eからのソロはたっぷりビブラートをきかせていきましょう。ベースの刻みは音が残らないように注意です。
Fの1小節前の4拍目の裏の音は抜かずに、次の音までエネルギーたっぷりで合いの手をいれてください。Fのサックスソロもたっぷりビブラートをきかせてカッコよく演奏したいですね。
51小節目からのポイントは打楽器です。コンガが素敵!管楽器の短い音符は音が残らないようにしましょう。
Gから最後まで
ここからは2/2のかなり速いテンポです。
大きな1拍子の感覚でも良いですね。
前述したように、パルスとしては細かくテンポを刻んで練習するのは大事ですが、音楽のノリは細かく刻んでしまうと苦しくなります。シーソーや大きな円を描くように音楽を作っていきましょう。
67小節目は管楽器は何もアーティキュレーションはないですが、ビブラフォンが入ってきます。こういったところはしっかり管楽器も強調しましょう。
77小節目はカッコいいですね。ユーフォはかなりくっきり演奏しないと木管の音型と合いません。Jも同じです。
Kからはスラーがついて雰囲気が変わります。ここは音色をガラッと変えましょう。甘い雰囲気が出せると良いですね。
113小節目のキメはバッチリ決めたいところ。ここできっちり2拍でアップダウンして、ffに重みを出しましょう。
Nからもティンパニは楽譜どおりだとやや重く感じます。短くはっきり演奏して、音が残らないようにしましょう。
130小節目の音を伸ばしているパートはfpとなっています。最初の音をしっかり出して、動いている音(木管やユーフォ)を聴かせるようにしましょう。
最後は終わりの音に向かってエネルギーを貯めてください。感覚としてはクレシェンドのように最後の音に向かっていって、最後に爆発する感じですね。決まればとてもカッコいいラストです。
こんなバンドにおすすめ!
必須になってくるのは打楽器パートなので、テクニシャン揃いのバンドにおすすめです。
逆に普段からポップスをやっているから課題曲をポップスにしよう、と安易に考えてしまうとドツボにハマってしまうかも。
改めて一からポップスに向き合う気持ちで、この曲に取り組むと良いでしょう。上手く編成を組み合わせれば小編成でも成り立つ楽譜なので、ぜひ多くのバンドに挑戦してもらいたいです。
まとめ
この曲を課題曲とした全日本吹奏楽連盟の意図が伝わっていますね。
課題曲が4曲になり、気持ち新たに吹奏楽コンクールというものを考えてくださっているのでしょう。
面白いことに定番の4/4マーチもないですし、いわゆる簡単な曲がひとつもありません。
吹奏楽が発展していった昭和から平成にかけての時代、そして全盛期。令和の時代から部活動のあり方が問われ始めた今。だからこそ「レトロ」なあの頃の情熱や想いが必要なのかもしれません。