1961年の傑作ミュージカル映画『ウエストサイド物語』を、スティーブン・スピルバーグ監督がリメイクした『ウエスト・サイド・ストーリー』が公開されました。
注目すべきは物語のみならず、華やかなダンスシーンや音楽の素晴らしさと美しさ。
音楽を作ったのは20世紀の巨匠音楽家、レナード・バーンスタイン。今回は、本映画の音楽の魅力についてご紹介します。
目次
ウエスト・サイド・ストーリーとは
ウエスト・サイド・ストーリーは、1957年にブロードウェイで上演されたミュージカルが基となり、1961年に映画化され、レナード・バーンスタイン作曲の美しい音楽と共に大ヒットしました。
その後アメリカでも日本でもミュージカルの定番として何度も舞台上演され、このたび60年の時を経てスティーブン・スピルバーグ監督により再映画化されました。現代にも通じるテーマがあると大きな話題を呼んでいます。
舞台は1950年代、自由と夢を求め多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイドと呼ばれる地区。
そこでは差別や貧困に不満を募らせる若者たちが数々のチームを作り、激しく対立し合っていました。
ダンスパーティーの夜、チーム”ジェッツ”の元リーダーだったトニーは、対立するチーム”シャークス”のリーダーの妹マリアと出会い、お互い一目で恋に落ちます。二人はチームの対立を止めようとしますが、この恋が引き金となり争いはいっそう激化。多くの人の運命を変えていきます。
作曲家、レナード・バーンスタイン
レナード・バーンスタイン(1918-1990)はアメリカの指揮者・作曲家で、20世紀を代表する音楽家の一人です。
1943年ニューヨーク・フィルの副指揮者に就任。急病のブルーノ・ワルターの代役で指揮台に上り大成功を収めたことがきっかけで各オーケストラから客演依頼が殺到します。その後ニューヨーク・フィルの音楽監督に就任するなどクラシック音楽界をリード。カラヤンらと共に偉大な存在でした。
作曲家としてもミュージカル音楽、交響曲、バレエ音楽など幅広く手掛けました。とくに有名なのがミュージカル『キャンディード』や『ウエスト・サイド・ストーリー』です。
バーンスタインはクラシックを礎にしながら、ジャズやポピュラー音楽などさまざまなジャンルの要素を作品に反映させ、独自の魅力を生み出しました。
中でも評価が高い『ウエスト・サイド・ストーリー』は、躍動感あふれるリズム、美しいメロディを持つ名曲揃いで、劇中の多くの曲がミュージカルの定番ナンバーとして親しまれています。
あの名シーンで使われた曲について解説!
ここからは、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』で、特に音楽が印象的だった場面と、その楽曲について詳しくご紹介します。
体育館でのダンスパーティー(Dance at the Gym (Mambo) / ダンス・アット・ザ・ジム)
トニーとマリアが出会ったのは体育館でのダンス・パーティー。
対立し合うジェッツとシャークスのメンバーたちの一触即発の緊張感、そして若者たちが持て余したエネルギーを発散させるかのように激しく踊る場面が印象的です。
ここで使われる曲が「ダンス・アット・ザ・ジム」。
「ブルース」「プロムナード」「マンボ」「チャチャ」「ジャンプ」など場面に合わせて小曲が切り替わる構成です。
ここではラテン・ジャズの要素が全面に押し出され、観客まで踊りたくなるようなワクワクする音楽がこれでもかと続きます。
特にパーカッションが大活躍するアップテンポの「マンボ」は何度でも聴きたくなる心地良さ。バーンスタインがクラシックのみならず多くのジャンルに精通していたことが窺えます。
ちなみにバーンスタインは『ウエスト・サイド・ストーリー』の中の主要なダンスナンバーを抜粋し、大編成のオーケストラのための組曲として「シンフォニック・ダンス」を発表しています。
こちらはオーケストラや吹奏楽のコンサートでよく演奏され、さまざまなCDにも収録されています。本映画のエッセンスをじっくり味わえる楽曲としておすすめです。
トニーとマリアの出会い(Tonnight / トゥナイト)
バーンスタインの紡ぐメロディの美しさを堪能できるのが、あまりにも有名な「マリア」「トゥナイト」の2曲と言えるでしょう。
「マリア」は、トニーがダンス・パーティーで一目で恋に落ちた女性の名前がマリアと知り、今まで耳にした中で一番美しい名前だと、その名を何度も呼びながら街を彷徨う歌。
リメイク版でトニー役のアンセル・エルゴートは、オペラのコーチ指導のもと何ヶ月も特訓したそうです。
1961年版の映画『ウエストサイド物語』では、トニーとマリアの歌声は吹き替えでしたが、今回のリメイク版ではトニーとマリア役の俳優が自ら歌唱して、その音源が使われています。
「トゥナイト」はマリアの住むアパートの非常階段で、まるで「ロミオとジュリエット」のように二人が愛を語り合うロマンティックなナンバー。
この曲は、終盤「クインテット」として再登場。ジェッツ、シャークス、トニー、マリア、アニータが、それぞれ”今夜”の思惑を歌い、最後には融合する複雑な構成です。
同じ楽曲を美しいデュエットと、緊迫感あふれるクライマックスに使い分けるところが素晴らしすぎます。ぜひ聴き比べてみて下さい。
女性たちがアメリカの自由を叫ぶ(America / アメリカ)
プエルトリコから移住してきたシャークスのメンバーたち。マリアの兄ベルナルドはいつか故郷に帰りたいと望み、恋人のアニータは自由の国アメリカを謳歌し続けたいと望んでいます。
そんなシャークスの男女の葛藤を陽気に歌ったのが「アメリカ」。6/8拍子と3/4拍子のラテンの混合リズムが独特です。ここでもバーンスタインの楽曲が普遍的な魅力を放っていることに驚かされます。
最初はベルナルドとアニータのちょっとした会話で、音量も小さめに始まりますが、いつしか女性たちがアメリカの自由を称え、男性たちはそれをからかう愉快な場面へと発展。リメイク版では、最終的に路上で市民を巻き込んだ大人数での大迫力ダンスへと繋がります。
映画のメイキングブックによると、真夏の過酷な太陽の下、10日以上かけて撮影した難関シーンとのこと。その分、劇中でも大きな見せ場になっているので要チェックです。
1961年版とリメイク版の映画を繋ぐ(Somewhere)
1961年版では、映画の最後に重要な意味を持つ楽曲「Somewhere」。トニーとマリアが切なく哀しく最後の希望を繋ぐかのように静かに歌うこの曲は、メロディのみならず和声の美しい響きにも注目です。
リメイク版では、意外なことにトニーが働くドラッグストアの店主バレンティーナが歌います。
バレンティーナを演じるのはリタ・モレノ。1961年版でベルナルドの恋人アニータを演じた女優です。
今回、製作総指揮にも名を連ねたリタ・モレノ。新旧の『ウエスト・サイド・ストーリー』を繋ぐ彼女の存在は、リメイク版のキャストやスタッフにも大きな力を与えたと言われています。
まとめ
60年の時を経てスピルバーグ監督はなぜこの作品をリメイクしたのでしょう?
憎しみや争いからは何も生まれないことを我々人間は歴史から学んできたはずなのに、現在も世界中に争いの火種が絶えません。
教育者としての一面も持ち、若い音楽家を育てることにも熱心だったバーンスタイン。彼の美しい音楽と、トニーとマリアの純粋な愛をスクリーンで味わいながら、この映画が投げかけるメッセージを一人でも多くの方に受け取って頂きたいと思わずにはいられません。