YouTubeが生まれて10年以上。アップロードされた星の数ほどの動画は、かつては想像もしなかった新しい文化の可能性を切り拓いてきました。
保守的・閉鎖的というイメージの強いクラシック音楽の世界にも、いまやYouTubeをきっかけに、新たな風が吹きつつあります。
そうしたYouTubeを起点とした新風のなかでも、ひときわ輝きをはなっている一人のピアニストがいます。

その名はPaul Barton(ポール・バートン)

この記事では、日々新しい音楽を奏でるポール・バートン氏の、豊かな芸術の世界の一端を紹介します。

Paul Barton氏のYouTubeチャンネル

芸術家 ポール・バートン Paul Barton

まずはポール・バートン氏がどのような人物なのか、簡単な経歴を紹介しておきしょう。

Paul Barton氏は1961年、イギリス、ヨークシャーの生まれ。

YouTubeでのピアノ演奏動画で知られていますが、実はなんと受賞経験もあるプロの肖像画家。現在はタイで活動しています。

Paul Barton氏がどのような生活を送っているのか、ラヴェルのボレロにあわせて紹介した動画がありますので、ご覧ください。

Paul Barton氏はピアニストである以前に芸術家なのです。

 

ゾウのピーター君との友情

ポール・バートンの名を有名にしたのは次の一本の動画でした。

https://youtu.be/hjsu3SGAdLs

ポール・バートン氏と一緒に、耳をパタパタさせながら鼻でピアノをたたくのは、ゾウのピーター君。

もうノリノリです。(もちろんピアノの鍵盤は象牙ではありません。)

ピーター君はNHKでも紹介されました。(下記動画)

Peter the Elephant plays a Green Piano

https://youtu.be/p5KoN54culM

Paul Barton氏はほかにもタイに住むゾウたちのために、野外演奏会を開いています。

たとえば、タイの草原にぽつんと置かれたピアノから鳴り響く、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番が美しい、次の一本。

Beethoven for Elephants – Thailand

ベートーヴェンはまさか、タイで自分の音楽がゾウのために奏でられるとは思いもしなかったでしょうが、きっと天国で喜んでいるのではないでしょうか。

もちろん相手はゾウたち、みんながみんなピーター君のように音楽が好きなわけではありませんし、時にはピアノを壊されてしまうこともあります。(詳しくは以下に掲げるドキュメンタリーをご覧ください。)

それでもポール・バートン氏は彼らと一緒に音楽を楽しみたいと、ゾウさんたちとピアノを弾き続けています。


*参考*
・ポール・バートン氏とゾウの歴史をまとめたプレイリスト

Music for Elephants

ポール・バートン氏とゾウのふれあいを記録したドキュメンタリー

 

アマチュア・ピアニストの味方 ピアニスト、ポール・バートン

Paul Barton氏の真骨頂はピアノ学習者のための、丁寧なピアノ演奏映像にあります。

演奏の質はもちろん、鍵盤を上から写した映像は、運指や手のポジションを知る上で非常に参考になります。次の一本は、ドビュッシーの「月の光」。

ネット時代の利点を生かした多彩なレパートリーも魅力です。たとえば、プロコフィエフの「ピーターと狼」のピアノバージョン。

動画の説明欄に無料楽譜へのリンクが付いており、自分で弾きたくなったら、楽譜をダウンロードして、すぐに弾くことができます。

そして、ポール・バートン氏のレパートリーを語る上で落とせないのが、日本人作曲家Mayumi Kato氏のピアノ作品。

ポール・バートン氏は彼女を高く評価し、数多くの作品を録音しており、二枚のCDになっています。

ポール・バートンの相棒 FEURICH 218

Paul Barton氏はピアノにもこだわりがあります。

彼が愛用するピアノは、FEURICH(フォイリッヒ) 218。

演奏映像でもピアノの側面に輝くFEURICHの金文字が確認できます。

FEURICHは1851年、ドイツのライプツィヒ創業のピアノメーカーです。

また、ピアノの新しい音色を求め、ピアノの豊かな共鳴を実現するthe harmonic pedalを導入するなど、実験を重ねています。

・The harmonic pedalを使った録音

 

音楽あふれる生活 愛娘のためのクラシック音楽

芸術が生活の一部となっているバートン一家。

ポール・バートン氏は2014年11月に娘のEmilieちゃんが生まれてから、折に触れて愛娘のために作曲、演奏した、いわば「音楽の成長アルバム」とでもいうべき動画を撮影しています。

その記念すべき最初の「音楽の成長アルバム」となったのが、生まれたばかりのEmilieちゃんを左腕に抱きながら奏でられた “Playing for Baby Emilie”でした。

それから間もなく、父娘のデュオが実現します。曲は愛娘のために編曲された特製のバッハのプレリュード。

音楽に囲まれてすくすく育つEmilieちゃん。

とりわけ、フォレスト・ガンプのテーマを演奏した次の一本は、芸術が完全に生活のなかに溶け込んだ、素晴らしく美しい映像作品としておすすめします。

なお、Emilieちゃんの「音楽の成長アルバム」は “Music for Emilie”というプレイリストで時系列に沿って見ることができます。

将来きっと娘さんへの素敵なプレゼントになることでしょう。もしもピアノが弾けたなら、同じことをしたいと思う親御さんも多いことと想像します。

Music for Emilie

家族は人間だけではありません。バートン一家にはイグアナも暮らしています。

最後にイグアナのIggyちゃんのために奏でられた、シューマンのトロイメライをお聴きください。

芸術家Paul Bartonの世界、いかがでしたでしょうか。YouTubeを通じクラシック音楽の魅力を配信するポール・バートン氏の取り組みは、現在も進行中。

生活のなかに溶け込んだオープンなクラシック音楽は、これからのクラシック音楽界が目指すべき一つの姿ではないでしょうか。

クラシック音楽の新しい可能性を示す一つの試みとして、目が離せません。